「いわさきちひろ 子どものしあわせ」展

-12年の軌跡

@ちひろ美術館・東京

こんにちは、matsumoto takuya です。今回は前回取り上げた広瀬康男展と同時開催されている、「いわさきちひろ 子どものしあわせ」展をとりあげてききます。

「いわさきちひろ 子どものしあわせ」展、公式サイト

いわさきちひろは、雑誌「こどもの幸せ」の表紙イラストに12年間携わりました。この表紙イラストは彼女に裁量がゆだねられており、彼女の絵心が存分に発揮されています。また、この12年もの間、彼女がいかに自らの表現方法を押し広げようかの試みと葛藤の過程をみることができます。

わたしはいままで彼女のファンではなく、そんな予備知識もなくふらっとこの展覧会によったのですが。いわさきちひろの世界観を堪能できる、内容豊かな展覧会でした。そして彼女の作品のファンになったのでした。

今回は、彼女の絵の特徴であるファンタジー性についてちょっと探っていきます。

イラストという枠をこえて

わたしは、雑誌「子供の幸せ」の表紙の特に後半のほうの作品を眺めているうちに、ふと、「イラストの枠を超えてるなと思うようになっていました。たまたま、わたしは先日、三菱一号館美術館で開催されている「画家がみた子供展」(この展覧会の記事はこちら)に行き、、世界に名だたる大家が描く子供の絵を拝見しました。「イラストという枠を踏み出している」と思ったのは、彼女の絵がもし、あの展覧会に大家の作品群のなかで見かけたとしても違和感がないと思ったのです。

 例えば、フェリックス・ヴァロットンの作品の横に彼女の後期の水彩のイラストがあっても見劣りしない。表現方法やイラストと絵画という条件は違えど愛らしさと情緒感においては彼女の表現はもはやイラストの枠を超え、日本という枠さえも超えているな、といったら言い過ぎでしょうか。

しかし、わたしには、彼女の12年間作品を見ていて全てに、このような感想を抱いたわけではないのです。

では、そうではない絵との違いはどこにあるのでしょうか。

淡いと余白はファンタジーの源泉

絵が愛らしいけども「ただのイラスト」と彼女の後期の「イラストを超えている作品」にあってないものがあります。それは写実的にすべての色を塗らないこと、または塗切らないこと、もしくはそれは余白があるかないかです。

彼女の作品で「ただのイラスト」だと思った絵にはこれらがない。カラフルで明るいのだけど、描かれきってあるがゆえに、見る側が新たにイメージをする必要がない。野暮ったく、子供向けの「イラスト」です。(イラストとして仕事をなさっていたのでこれで十分なのですが)一方で「イラストを超えている」印象を受けた絵にはこの三つのうちどれか一つは当てはまります。とても情愛らしいのに憂いもあり、それでいて、とても幻想的な奥行きがあります。つまり調子を感じるのです。

またこれは、線にもいえることです。かすれやつなぎ切らない部分、部分的な太い線これらが、全てを描き切ってしまう過去の彼女の作品との違いとして見て取れます。

展示を見ていると、彼女は徐々にこのような「余白の創出」を試行錯誤の中でつかんでいったようです。パステルから水彩へ、かすれや思い切った省略、勢いのある線を試みと失敗の先に、彼女はこのあわい、とも余白ともいえる部分を表現するに至ったようです。

答えの前例がない中で、試行錯誤をし表現を続けていくことは、とても勇気と忍耐力がいるはずです。今展覧会では、彼女の創作のなかでの葛藤も、紹介されている彼女の文章から知ることができます。

生み出すことの中での悩み

彼女は、自身の絵がファンタジー色が強すぎで、本来こどもがもつ泥臭さに欠けることを自覚していました。一貫してブレがないような彼女のスタイルですが。彼女が自身のスタイルを完全にうけいれ擁護し自信ももって発表していくには少なくない時間と悩みがあったようです。

こういうエピソードを知ると、わたしは励まされます。大成したひとも例外なく完璧でなく悩みがあり、時に弱気になることがあることがわかると、わたしが少し肩の荷がおりてほっとするのです。失敗ばかりの自分への自責が和らぎます。 

同時に悩みを乗り越えた作家の作品は、はるかに試行錯誤前よりいいのだということを、理屈ではなく見て感じ取れるます。わたしもいまは悩んでいるし試行錯誤のなかにいてしんどいけどしんどいも、彼らと同じ人間なんだから、乗り越えられるかもしれない。とは励まされるのです。

以上、いわさきちひろのファンタジー性についてのちょっとした考察でした。お付き合いありがとうございました。

「いわさきちひろ 子供の幸せ」展
[会期]2020年3月1日(日)~10月11日
[会場]ちひろ美術館・東京
[主催]ちひろ美術館
[協賛]株式会社ジャクエツ

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