「おいしい浮世絵」展

~北斎 広重 国芳たちが描いた江戸の味わい~

           @森アーツセンターギャラリー

こんにちは。matsumoto takuya です。今回は、森アーツギャラリーで催されている『おいしい浮世絵展』をとりあげます。浮世絵そのものの魅力を伝えるだけでなく、描かれた食のシーンを追いかけていく展示となっていて、さらに食が接点となる形で歌舞伎、旅、江戸の日常風景といった当時の江戸の生活の大部分を浮世絵をとおして観ることができます。食べることは生きることそのものなんですね。

『お庭の花あそび』にみる、現代の日本画のルーツ

入ってすぐの部屋に展示されているこの作品は、河川を背景に梅(か桜)が咲き誇る前で立つ女性たちが描かれています。わたしはこの絵をみたとき、ふと、郷さくら美術館(目黒)が頭に浮かびました。郷さくら美術館は、日本画家がさくらをテーマに描いた作品を展示している美術館で、そこに展示されている何枚かの桜の絵の構成というか色使いのバランスがとてもこの絵にとても似ていると感じたからです。日本画の表現形式の一つの理想形なのでしょうか。

『北斎漫画』の一つには町人の飲食シーンやたばこに似たもので煙をくゆらす仕草がコミカルに描かれています。しぐさや表情をみていると、漫画家井上雄彦さんの宮本武蔵を描いた漫画『バカボンド』に出てくる人物たちの小さいコマでみせるそれととても似ている。影響のあるなしはわかりませんが、今の漫画で描かれている人物の動作や表情の原型を感じました。

それにしても、彼の日常への好奇心の強さには驚かされます。彼の日常生活へ、というか人間への関心の強さがなければ、北斎漫画は生まれなかったはずです。彼は本当に人が好きだったんですね。

江戸時代の生活の中から生まれた歌舞伎

『中村座内外の図』は満員御礼の中村座を描いた歌川豊国の作品です。この絵からは、当時の歌舞伎への熱狂のようなものが感じ取れます。それに、よくもまぁ、役者のとどまらずお客の一人一人の表情しぐさまで描いたものです。

その絵で描かれている一人一人の服装、表情、態度を観ていると、現代の私たちに通じる共通した感覚や、当時の歌舞伎と現代の歌舞伎の違いが浮かび上がってきます。

中村座に入っているお客の服装や髪型は当たり前ですが当時の生活様式です。役者は奇抜な外見をしていてもやはり当時の生活様式の延長上にあります。つまり、イケメンがチョット着飾って化粧をし日常の言葉遣いをやや誇張するのが役者なのです。現代を生きるわたしにとって、歌舞伎の格好はわたしにとって、はあまりに浮世離れしているので、今まで考えたことはなかったのですが、当時の民衆にとって歌舞伎役者の奇抜な外見やセリフまわしは、今でいうビジュアル系バンドくらいの位置だったのかもしれません。つまり、そこまで日常感覚からして不自然ではなかったということです。ビジュアル系を愛する嗜好が脈々とわたしたちの中に流れているようです。

この作品からみてとれる今の歌舞伎との違いについては、劇の物語を演じる役者、受け手のお客が、同じ髪型、家屋、和服や四季の生活行事などの「生活」を共有していたかどうかではないか、という点にあるようです。この共有された「生活」によって民衆は作り物の物語にリアルを感じることができるので、演劇の世界にすっと入っていける。この絵だけでなく、展示されている、他の浮世絵画家が描く江戸の風俗を見ていてもそう思います。日本人の「私」が、シェークスピアの劇を観るときに西洋の人に比べると物語に没入しずらいのと同じ理由です。おそらく当時の初代名だたる歌舞伎役者は今の感覚の「歌舞伎」を演じているというよりは、現代劇や映画やドラマをやっているという感覚だったのではないでしょうか。今の私たちの生活は300年前の江戸の生活スタイルからあまりに劇的に変化してしまっています。文化は実際に生きている人々の「生活」を基盤とする。では、「生活」そのものが大きく変わってしまったらどうなるのか、そこに引き継ぐ難しさがあるように思えます。

おちゃめな浮世絵コーナー

 わたしは最近になって、浮世絵は美術の中でも比較的重すぎない要素を大事にしていた、「軽い気持ち」で眺めるものではないかと思うようになりました。義務教育の過程で、何やら西洋の大芸術家が影響を受けたという頭でっかちな知識が邪魔して、真面目になりすぎていたようです。「「ああ、飽きる」とか「くだらねぇ」と感じるのは自然なんだし肩の力を抜いて気軽にみてみなよ」ということを、少し前に浮世絵そのものから教わったのです。この軽さというか軽やかさが実は浮世絵の美点なのではないでしょうか。名作ばかりの大きな美術館を巡っている中で終盤にシャガールが描く突拍子もないそして、簡素すぎる絵、少し笑える絵に出合うと、フッと心がかるくなるように。絵の中に私たちは美や力をみいだします。これらの構成要素に、ユーモアもあるんだという意味でです。

ここで、今回の展覧会で展示されたものの中から、わたしが独断と偏見をもとに、お茶目な浮世絵ベスト5を選抜していこうとおもいます。

  • 5位  『大名出世双六』   

モノポリーの日本版、古今東西、人種をこえて、出世欲があるのが私たち人間なんですねぇ。

  • 4位  『江戸花夜の振り』『市川海老蔵太田川小文吾』市川高麗蔵作

日本女子の好きなイケメンのタイプの系譜がわかります。スラっとした清潔感のある色白イケメン(ジャニーズ、宝塚系)と、彫ぶかいくりくりした目の浅黒イケメン(エグザイル、建築現場の職人)。()は今でいうとという意味です。

  • 3位  『だるまさん』の絵 数枚

今以上に当時言わずと知れた、民衆から尊敬されていたであろう、インドの高名な禅僧『達磨大師』が出てくる絵。このだるまさんのデフォルメが親しみやすさをの一線をこえているように思えるのはわたしだけでしょうか。 

  • 2位 『魚づくし ぼらに椿』

ぼら(ニシン科の魚)に椿を合わせる発想がおもしろい。おしゃれの新しい表現である。

「いやいや、生魚の絵がおしゃれなわけないじゃん。キモっ」とおっしゃる方がいらっしゃるかもしれない。そんなお方には、西部池袋東口のルイス・ヴィトンのショーウインドウを是非ご覧あそばせ。そこにはここに描かれているぼら(ニシン科の魚)のに似た魚のオブジェクトの背中に高級バックが乗せられていますよ。(2020年7月21日現在)世界的高級ブランドのデザイナーが発表する300年近く前に、すでにわたしたちの先輩がアイデアを形にしていたわけである。誇らしい。

  • 1位  『北斎漫画 十二編』葛飾北斎作

くねくねと立ち上がろうとしている巨大なウナギに情けない風体の男数人ががまとわりついていますす。その奇妙な構成や男たちの表情の、なんとも気の抜けた間抜け面は必見です。これを描いているときの北斎を想像するとこころが和みます。

以上 お茶目な浮世絵 ザ・ベスト5でした。  

 結びに     

 絵画と同列で文化を解説すると、どこか純粋に絵を眺められなくなることがままあります。が、この展覧会ではそこまで気になりませんでした。浮世絵が本来的に、民衆の日常をユーモアとともに描いているタイプのだからかもしれません。展示をみているとお腹がすいてきました。近くの人が何か食べているの見るとそれを無償に食べたくなるあれです。夕飯がいつもよりおいしくなりました。

     

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