『うつくしい人』ブックレビュー

book review

こんにちは、matsumoto takuya です。今回は、人気作家の西加奈子さんの著書『うつくしい人』のブックレビューを書いてきます。

読んでいて苦しくなるのだが引きこまれる序盤

主人公の百合は、アラサーで比較的「成功」を収めたてきたという自負をもった女性だ。ここでいう「成功」は他人からみて評価されるであろうものをある程度獲得してきた、ことで得られる「成功」だ。彼女は他人の評価をよりどころにして、人生を選択してきたのだが、その実情は選択肢などなく、そうすべきという「恐れ」に決定権を握られている。そこには「自分」しかおらず「私」がいない。彼女の自分への見方は当然他人にも及ぶ。他人を観察し評価の裁きを下す。

一言でいえば嫌な奴だ。けれど自分に「幸せなのだ」と嘘をつかないだけ誠実でありまともだとも思う。この百合と同じような部分が自分の中にあること見認めざる負えない。だからこの本を読んでいて苦しくなるのだけ引き込まれてしまったのだ。とても他人事だとは思えない。

自分に本当の意味で自信がなく、外からの評価におびえ委縮し、それを恐れ行動を支配されてしまう。何とか「成功」、努力して手に入れ身にまとうも、思っていたような満足感はなく、しかも持続せずむしろ窮屈になり、なんとか、「成功」できていない人達を見下し、彼らよりマシだと優越感でごまかそうとする。そして、また次の「成功」に振り回されていくがやる気がでてくれない、、、可哀そう、苦しい、というかこれってわたしだ。

男も女も同じ人間

わたしはしばらく、女性は百合のような生き方をしていても壊れるほどには苦悩しないのではないかと思っていた。大人になっても「女子会」などをして群れることにむしろほこりを感じているように見える。仲間外れにされないための演技もあまり葛藤がない女性が多いように私には映っていたからだ。でもこの物語をとおして男も女もあまりこの点は変わらないことに気が付かされる。もちろん人によるだろうけど、、、作者の西加奈子さんは当時の心境をあとがきでこう書いている。

執筆にかかった当時、わたしはこころの表面張力がぱんぱん、無駄な自意識と自己嫌悪に苛まれ、うっかり傷つく中二病状態が続いていた面倒な三十路女性で、些細な出来事を敏感に受け取り、、、、

『やさしい人」あとがきより引用

主人公百合は彼女の当時の心境を投影していたとも文庫版あとがきに書いていた。そもそも、この本を手に取ったのは、見出しに「他人の目を気にして」と文庫の後ろに書いてあったことが気になったからだ。今の西加奈子さんは内なる自信をひめた動じない女性のイメージがあったので少し意外に感じ手に取ったのだ。そして「ああ、こういう部分があるのは彼女も同じなのだな、とほっとしている自分を発見した。ここに仲間がいたと。

中二病という言葉を耳にするとき

そもそも、この「中二病」という言葉は結構厄介な言葉だと最近思う。自意識過剰もしくは無知で夢見がちな状態という嘲笑的な意味のこの言葉は、人生がいい時期であることしか想定していない。例えば、主人公の百合のような今までの生き方を見直そうと思い始めるほど苦しいとき、病気で何らかの後遺症が残り今までの自由が失われた人や、大切な誰かと別れたり失ったりしたとき、中二病にならない人がいるだろうか。

生きていれば、こういういいとはいえないセンシティブにならざる負えない「いっぱいいっぱい」な時期がある、というか定期的にくる。苦しんでる人をそれ以上否定しても仕方ないと思うのだ。だいたい見下している時にしかこの言葉はつかえない。

くわえて、大人になって何か新しいことや始めたり、遊びを始めようとするときもこの言葉は呪いのように響いてきて、やる気がそがれる。

得られるものは言った人が得られる優越感くらいだろう。

「うつくしい」とは何なのか?

話を、『うつくしい人』に戻したい。読んでいて自分を重ね、いたたまれなくなったからこそ、終盤の転換は嬉しくなった。外は相変わらず青みががった曇りなのだが、それ以上に薄暗い建物から出てきたので光をより強く感じるときのような明るさなのだが、読んでいて救いがある。百合が自分とは正反対(に百合には映る)なふたりの人物との出会いによって変わっていく、もしくは変わるためのヒントをつかむ方向に進んでい展開は今までのかさかさ感とはうってかわって潤いが感じられた。

「成功」だけではわたしたちは満足できない、そこには「うつくしい」と感じる「私」が必要なのだ。周りがどういおうが「私」が美しいと感じたもの、この喜びがおしえてくれる価値こそ僕らを満足させてくれる唯一の物なのだということに改めて教わった気がする。

ふと、世界的ロックバンド「oasis」の「Important of being idle」の歌詞が頭に浮かぶ

I can’t get a life if my heart is not in it

oasis:important of being idle より引用

 そこに、うつくしいと感じる「私」がいなければ、「成功」していようと人生と呼べないのだ。

『うつくしい人』

著者:西加奈子

発行:幻冬舎

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