「モノクロームの冒険」展

「モノクロームの冒険」展レビューのアイキャッチとして

~日本近世の水墨と白描~

@根津美術館

こんにちは、matsumoto takuya です。今回は南青山にある根津美術館で開催中の「モノクロームの冒険」展をとりあげます。

水墨画を知っている人は多いかもしれんせんが、白描について知らない人が多いかもしれません。展覧会の解説によると水墨画は書道から派生し、筆の特性を生かした線の勢いや濃淡で描かれるのに対して、白描とは書道伝来以前からあるもので細い線で描かれた絵のことだそうです。

この展覧会では、日本画の水墨・白描の国宝級の古典にふれあえると同時に、古今東西の仏の石像、そして、古代中国の青銅器に出合えることで、日本の芸術が中国との関係で影響を受け発展してきたのかを重要文化財に指定されている古典アートでみることができ、世界とのつながりを実感できる内容となっていました

「モノクロームの冒険」展公式サイト

モノクロームの絵にはどこか不思議な存在感、奥行きを感じます。それは一体なぜなのだろうか。ここでは、そのあたりを今回の展覧会と関連付けながらすこし探求していきます

白と黒の絵

写真にしても、同じ印象を受けるのですが、モノクロームにはカラフルな絵には見られない存在感があります。単純に考えるとカラーのほうが、たくさんの色を使っているのだからリッチな感じがするだろうとおもうのですが、美術館に展示されるようなモノクロームの名作を見ていると単純にそうとは言い切れない。これは考えてみれば不思議です。

モノクロームの代表的なトーンは白黒モノトーンです。私たちにどこかリッチで締りのある、スマートな印象をうけます。水墨画、白描画も基本はモノトーンなのですが、黒という色を考えてみると、これもまた不思議です。黒歴史、暗黒時代、「あいつは黒だ」といったセリフ等、忌べき言葉でして使用される一方で、クレジットカードの最上位のカードは「ブラックカード」と呼ばれます。黒という色は相反する様々なものを象徴する色として使われていることがわかります。黒という色は、私たちに無限の想像を許していくれる色だということができます。

この視点で見ていくと、黒と白のグラデーションであるモノクロームとは、絵画の中で作家が一番表現の対象を選ばない自由度の高い色相ということができます。つまり書き手のイマジネーションや想像力、構成力といったものを表現し、また見る側に様々な想像を促すとうい意味で、モノクロームは優れた色相だとうことです。そして、カラフルでごまかせない分書き手の力量が正直に表れてしまう色相だともいえます。

この展覧会では、日本画の古典である巨匠の「モノクローム」の絵画を見ていると、かつての日本人がの想像力、モチーフといったものがとてもしっかりしていたのだということがわかります。モノクロームの色彩で何百年と時代をこえた絵画がこれほど生み出すことができた国は西洋でも多くないのではないでしょうか。考えてみれば、日本初の文化である漫画も基本はワントーンの絵、つまり、モノクロームだと気が付きます。

ところで、モノクロームの名絵を活かしているのは「陰影」や余白のような気がします。この余白の中の陰影、憂い、畏れユーモアの表現がとても奥ゆかしく描かれているのが日本画なのかもしれません。これは日本庭園にも言えるかもしれません。枯山水と呼ばれる石庭もワントーンでモノクロームといえます。このモノクローム表現で美や精神性を表現できるなんて考えてみればすごいことですね。

日本庭園といえば、根津美術館は立派な日本庭園を大都会の真ん中で散策できる美術館です。この根津美術館の庭なのですが、とっても奇妙な要素が散りばめられていて予想に反しておもいろいのです。

「千と千尋の神隠し」のような庭

正直にいうとわたしは、一部の外国人が評価するほど、日本庭園をいいと思ったことはありません。灯台もとくらし、ということわざがありますが、どこか見慣れたもので、見慣れた日本っぽさを感じさせる退屈なデザインという印象をどうしても拭えない。

とはいえ、せっかく根津美術館をはじめて訪れたのだからと、散策してみると。それはわたしの愚かな決めつけだった思い知りました。

この庭園は広い斜面に造園されていて、勾配があり、細い曲がりくねった階段の小道が木々の緑の中に続いています。緑に囲まれた、階段状の小道を下っていくと要所要所に仏教美術らしき石像や造形物にでくわします。これらの仏教美術は日本庭園に馴染んでいるのですが、木々の中の勾配のある入り組んだ道中で石像たちにばったり出くわす感じが、まるで自分がどこか非現実の世界に迷い込んでしまった、もしくはその入口にいるといった雰囲気を感じさせるのです。

この雰囲気はジブリの「千と千尋の神隠し」の冒頭で千尋の家族が車でまよいこんだ山道のシーンのようでした。雨の滴る夕暮れ時に、私は一人で根津美術館の庭園が生み出す陰影の中でぶらぶらしていたので余計にそう感じたのかもしれません。こわおもしろいといえばいいのでしょうか。

こわいといえば、「モノクロームの冒険」展の展示室4は圧倒されました。こちらは、「こわうつくしい」といった印象でした。とにかくすごい展示でした。

まがまがしく、そして美しい

展示室4では、古代中国の「殷・周」時代の青銅器が展示されていました。この青銅器は日常使いのものではなく、殷や周の皇帝の所持品であった可能性が高い非常に貴重なもので、また神具として使用されていた青銅器です。この青銅器が、とっても圧倒的なのです。そももそ、殷は紀元前約1000年くらいにあった中国の王朝で周は殷の次の王朝です。ともに「古代文明」を感じられる時代です。当時の王の権力は絶大なものでした。わたしは、西洋の中世を自学した時に、その栄華に隠れた冷酷さ・非情さにゾットしたのを覚えていますが、おそらくこの時代の冷酷さ・非情さはそれ以上のものかもしれません。(酒池肉林、残酷な処刑方法等)

双羊尊:「モノクロームの冒険」展公式HPを参考に筆者が描画:中国 おそらく湖南省 全13~11世紀 高さ45.4㎝ 口径14.9㎝~18.4㎝
双羊尊:「モノクロームの冒険」展公式HPを参考に筆者が描画:中国 おそらく湖南省 全13~11世紀 高さ45.4㎝ 口径14.9㎝~18.4㎝:同公式HPより引用

この青銅器を見ていると、そんな怖さを感じるのです。呪術的な怖さ、といったらいいのか。しかし、同時にすごく美しく、とんでもない存在感を感じました。富樫義博『ハンター×ハンター」暗黒大陸・王位継承編にもその物語のカギとして、まがまがしい魔力を帯びた壺が出てきますが、まさにそのリアル版といえます。(知らないお方、もうしわけない)取っ手部分は今のゆるキャラのような動物の顔でかわいらしいのですが、アニミズム的な文様の幾何学的な美と神事の畏敬の念が見事に調和して「普通じゃない」感が醸成されていました。神話的な美という言葉がしっくりくる、ジブリのラピュタで巨神兵が眠っている天空の城にありそうな青銅器といえばわかりやすいかもしれません。

この展示は展覧会のタイトル「モノクローム」アートでもあり、まさに未知なるものに触れてわくわくする冒険心を感じ取れるて、タイトル負けしていない展示でした。まさに「モノクロームの冒険」を味わったなという満足感が得られたのです

美の要素には、「畏怖」がある

水墨・白描からみる、モノクロームの深み、仏教美術が点在する日本庭園の陰影と、古代中国の「不気味で美しい」青銅器、これらを見ていくとふとある考えが頭にうかびます。人間は、未知なるもの・恐いものを嫌うと同時に、好きだという不思議な存在だということです。意外な発見ができる、いい意味で期待を裏切ってくれる展覧会で、都会に景色に飽きてきた人におすすめです

以上、南青山にある根津美術館で開催中の「モノクロームの冒険」展についてでした。おつきあいありがとうございました。

「モノクロームの冒険」展

[会場]根津美術館

[会期]2020/9/19(土)~11/3(火・祝)

[休館日]9/21日(月・祝)を除く毎週月曜日、9/23(水

[開館時間]午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)

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