ドレス・コード

~着るものたちのゲーム

@東京オペラシティ アートギャラリー

「あ”~暑い」と天を仰ぐ東京オペラシティのオブジェクト

こんにちは、matsumoto takuya です。今回は東京オペラシティ アートギャラリーで開催中の「ドレス・コード―着るものたちのゲーム」展をとりあげます。

ドレス・コードとは何なのか、そもそもファッションというのは何なのかといった問いを探求できる展示となっていました。ファッションがいかに私たちが属する様々な領域に不可分に関わっているのかが見えてくる、質が高い展覧会でした。

タイトルからして、社交界のドレス、コスプレの博物館的な感じだろうと思っていたら大間違いで、漫画、アート、政治、戦争、ストリート、サブカル、といったファッションが持つ複数の境界面について網羅時に取り上げられていて、見た目だけでなく知的好奇心もくすぐる展示となっていました。

現在のファッション業界の名だたる世界的ハイブランド、デザイナーの衣服やバックの傑作が展示されているので、洋服好きにとっては、ただただ眺めているだけ楽しめるかもしれません。

「ドレス・コード―着るものたちのゲーム」展公式サイト

画面左:受付前装飾、画面中央および画面右:展覧会風景

ビシッとしたスーツを着ている人をみると、実は頭が空っぽな人であったとしても、なんとんなく「できそうだな」と思ってしまいます。あるドレス・コードにあった服を身にまとうだけで、わたしたちはその人を知らないのにも関わらずその人へのイメージを持っていることに気が付きます。ここに服というものの働きがあるようです。あらためて考えてみると不思議です。

今回はそんな不思議を探っていきたいと思います。

以下内容を含みます。

人のイメージは身に着けた服に依存する

『ぼろきれのビーナス』という最初の展示を見た時のことです。ぼろきれの前の佇むビーナスからは、あまり美しさお感じないことに気が付きました。美しいなと感じるのも衣服に大きく左右されているということ一目でつかめる展示でした。

青山悟『News From Nowhere』という作品は、古風な英語圏の新聞の人物の挿絵を衣服部分を刺しゅう化した作品だったのですが、衣服の質感を刺しゅうで表現するだけで、これだけ人物へのイメージが膨らむのだとおどろかされます。

展示2では、名だたるハイブランドのスーツ、それもマスターピースが陳列されてしました。めったにお目にかかることはないなとしげしげと眺めていると、一見没個性の代名詞であるスーツに、ブランンドよってそのデザインに微妙な、違いがあるのがよくわかりました。格式ばった硬い古風なものは、あえて真面目さ実直さを見る側から得るための「わざと」なんだな、とか勝手に想像していくと、一見そっけないスーツの群れも楽しめるものだなと思いました。

反抗すらも「ドレス・コード」のなかにある

服には、イメージを与える効果の他に、管理者が被従属者を管理しやすいという効果もあります。

学生の頃、高学年の先輩が学生服を着崩しているのをみて憧れたのは、多かれすくなかれ「管理されている」という束縛を感じていて、それに反抗している上級生に憧れたのだ、ともいうことができます。

従属の象徴である制服にたいして、着崩したり、あえてルーズに着たりといったおしゃれ意識はスーツのというジャンルでブランドの差別化とにています。日本ではヤンキー文化がありますが、校則等で髪を染めたり、ピアスを開けたりといったことが禁じれられば禁じられるほど、従属の「型」である制服から脱したくなる。

しかし、後半の展示を観ているうちにヤンキーも一つのファッションの「型」だということがみえてきます。一見個性的に見える彼らは、グループでみてみるとみんな似ているのです。支配の象徴ともいえる「型」を壊そうとする反抗自体もまた、「どう見られたいか」という一つのファッションだといえるのです。もしかしたら、ヤンキーグループで本当に自信にあふれた魅力あるひとは一人か二人で、ほかは、彼らと同じ外見をすることでで「ヤンキーのイメージ」を利用している人たちだったりするのかもしれません。

ブランドの語源は「焼印」

ところで、ファッションといえばブランドという言葉がもい浮かびます。解説によるとブランドという言葉の起源は、家畜や所有物を他人のもの区別するために所有者が被所有物にする「焼印」なのだそうです。つまり、自分の持ち物である目印なのでした。

本来、屈辱的な意味のブランドが今日こぞって自ら身に着けている現状を考えるとすこし滑稽ですが、それがいつしかその所有者である権力者や他社との差別化等のイメージを利用する方向にも利用され、現在のブランドという意味になっていったそうです。「イメージの利用がブランドのエッセンスである」とこうやって正面から突き付けられると、私たち人間の狡猾さや卑小さが垣間見れるてくる気がします。「トラの威を借るキツネ」「他人の看板でけんかを売る」という意味がわたしたちがブランドを求めいるの意味だったのですから。

フラニーの皮肉

”—仮にボヘミアンの真似をするとかなんとか、とんでもないことをするとするでしょ、そうすると、それがまた、種類が違うというだけで、型にはまってる点では全くみんなと同じことになってしまうのよ」”

『フラニーとゾーイ』33頁 サリンジャー 訳者 野崎孝 新潮社より引用

これは、サリンジャーの『フラニーとゾーイ』の中で、大学生のフラニーが、彼氏のレーンに放った言葉です。サリンジャーがフラニーをとおして言った内容は、まさにこの展覧会の核心を突いていると思います。

展示8『誰もがファッショナブルである?』では、おしゃれ好き自由にえらんでる服、反対に服はどうでもいいと思っている人が着る服でさえステレオタイプの「型」に分類可能だという内容でした。わたしたちが自覚がなくても型にはまってることわかり、はっとさせられます。

また、トレンチコートと迷彩服を特集したコーナーは、ファッションが何たるものなのかをわかりやすく理解できるコーナーでした。この二つは戦争の軍服が原型でそれが今ではファションの定番になっています。戦場での必要性から生まれたこれらの服は、ひとたびファッションに転用されると、戦争とはかけ離れたとても柔らかいフェミニンなトレンチコートにもなる。無駄を省いた機能的な服がこれほどまで本来の用途からかけはなれていることがわかるこの展示は、ファッションとは、どういったものなのかといったことが要約されているようでした。ファッションとは「どう見られたいか」という「イメージ」の利用であって、その服の本来の出目や機能は重要ではないのだということです。

わたしは、美術館に行くようになり、ずっ疑問に思っていたことがありました。それは、芸術の美とファッションの美はどう違うのかといった疑問でした。ファインアートと商業デザインの違いともいえる問い。この問いにのヒントがここにあるように思いました。

芸術とファッション

アートは創造であり、個別性、一回性といったもの、もしくはその作品が生み出された背景や、作家の思い等々が重要になってきます。一方で、ファッションは、それらは重要ではなく、可視的にその美を纏うことでどういうイメージを人から得られるかといったドライで打算的な要素が重要だということです。前者は「美そのもの」を欲し、後者はそこからえられる他者からのイメージを欲するといえると考えられます。ルイス・ヴィトンがダヴィンチの『モナリザ』、モネの『睡蓮』をサンプリングしたバックが展示されていたのですがそれをはっきりと可視的にかんじとれました。芸術の精神が消えうせ、芸術の雰囲気を何の抵抗もなく利用できてしまう、「すべてが等価で交換可能」なもの。それがファッションなのです。

”----すべてが等価で交換可能

ドレス・コード―着るものたちのゲーム:解説より引用

擬態と仮装、マジョリティーとマイノリティ

その視点で、no61.『コム デ ギャルソン/川久保玲 ショービデオ』では奇抜なデザインのファッションショーの映像がみられます。この映像を見たとときに、おしゃれが絶対的なものではなくて暫定的で相対的なものだと気づかされました。展示5のタイトルが「見極める目を持たねばならない?」と付されているのには納得します。

逃れられないなら、遊んでやろう

ファッションは政治からくるかつての強制的な「ドレス・コード」からどんどん開放されてきているようです。また、トータル・コーディネートの時代ももはやおわり、サンプリングにより個人がファションをたのしめる表現の幅もがっているみたいです。

ここまできて、ようやく当展覧会のサブタイトル「着るものたちのゲーム」の意味がわかったようなきがします。今までさんざんファッションの真実を暴露してきたのはこれが言いたかったのではないかという気がします。

つまり、「すべてが等価で交換可能」で「いいも悪いも服をきるかぎりなにがしかのイメージを使用・利用することがさけられないない」それでいて「絶対的なファッショナブルがない」ないなら、こちらから受け入れて、積極的に遊んでやろうよ、というメッセージなのだとわたしには思えたのでした。

以上、こんなに長くなるとはおもいませんでした。それほど、充実した展覧会だったということです。長々とおつきあいありがとうございました。

「ドレス・コードー着るものたちのゲーム」

[会期]2020年7月4日[土] ― 8月30日[日]

[会場]東京オペラシティ アートギャラリー[3Fギャラリー1, 2/4Fギャラリー3, 4]

[開館時間] 11:00―19:00(入場は18:30まで)

[休館日] 月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、8月2日[日](全館休館日)

[主催]公益財団法人 東京オペラシティ文化財団、公益財団法人 京都服飾文化研究財団

[協賛]NTT都市開発株式会社

[特別協力]株式会社ワコール

[企画協力]京都国立近代美術館

[協力]KLMオランダ航空、株式会社七彩、センクシア株式会社、ヤマトグローバルロジスティクスジャパン株式会社

[助成]モンドリアン財団

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